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東京高等裁判所 平成12年(ラ)2008号 決定 2000年11月06日

主文

一  本件執行抗告を棄却する。

二  執行抗告費用は、抗告人の負担とする。

理由

一  本件抗告の趣旨及び理由は、別紙「執行抗告状」(写し)のとおりである。

二  抗告人は、本件不動産競売申立ての基礎となっている抵当権については、抵当権設定契約を締結したことがなく無効であると主張するが、担保権の不存在又は無効は売却許可決定に対する執行抗告の理由とはならないというべきである。

三  よって、本件執行抗告は理由がないからこれを棄却し、執行抗告費用は抗告人に負担させることとして、主文のとおり決定する。

(別紙)

執行抗告状(写し)

抗告の趣旨

浦和地方裁判所第3民事部が平成12年9月5日にした不動産売却の許可決定を取消す。

との裁判を求める。

抗告の理由

1、 抗告人は、本件競売事件の目的不動産である別紙物件目録記載の不動産のうち物件目録1、3記載の不動産(以下「本件物件」という)の所有者であり、上記売却許可決定により、本件物件の所有権を喪失することになり、権利を害されるものである。

2、 浦和地方裁判所第3民事部は、ファーストクレジット株式会社の申立てにより、浦和地方法務局平成4年8月21日受付第44387号で別紙物件目録記載の不動産につき登記された平成4年8月6日金銭消費貸借同日設定の抵当権(以下「本件抵当権」という)に基づき、平成11年12月10日、別紙物件目録記載の不動産に不動産競売開始決定をなし、平成12年9月5日、金4億2000万円で入札したファーストクレジット株式会社に対し売却許可決定をなした。

3、 ところで、抗告人は、本件物件に本件抵当権の設定を承諾したことはなく、本件物件についての本件抵当権設定登記は無効である。

4、 本件物件につき本件抵当権設定登記がなされた経緯は次のとおりである。

<1> 抗告人の長男で同人と同居している債務者矢作重は、本件物件その他不動産の登記済証を保管していたが、10年程前から物忘れのひどくなった抗告人から同人の実印や印鑑登録カードを預かるようになった。

<2> 矢作重は、平成2年、顔見知りの中国産カシミヤ輸入会社の社長から事業拡大のため取引先銀行からの借入れの債務保証をするよう頼まれ、富士銀行に対し同輸入会社の連帯保証をしたほか同人や抗告人が相続で取得した土地を銀行に担保提供したが、主債務者が履行せず、平成4年2月頃から富士銀行に担保物件の実行を迫られ、平成4年8月、ファーストクレジット株式会社から保証債務履行のため多額の金銭を借入れることにした。本件物件を含む別紙物件目録記載の不動産にファーストクレジット株式会社のために抵当権を設定することが条件となった。

<3> 矢作重は、上記事情を正直に抗告人に説明した場合は抗告人が反対して抵当権設定を承諾しないことが予想されたので、抗告人に無断で本件物件を担保提供する手続をすることにし、預かっていた印鑑登録カードを勝手に利用して抗告人の印鑑証明書の交付を受け、平成4年8月上旬、自宅応接室において、抗告人から信頼されていることを奇価として、一切の事情を知らせず、高齢で判断能力の減退した抗告人にファーストクレジット株式会社が準備した金銭消費貸借並びに抵当権設定契約証書、登記申請委任状等に署名させ、保管中の抗告人の実印を無断で捺印して書類を完成させ、それら書類、印鑑証明書、登記済証等をファーストクレジット株式会社に渡し、本件物件にファーストクレジット株式会社のために本件抵当権設定登記がなされたのである。

5、 なお、本件抵当権の設定は、金銭消費貸借契約と一体となった平成4年8月6日付金銭消費貸借抵当権設定契約証書に基づくものであるが、平成4年8月6日ファーストクレジット株式会社より債務者への貸金4億1000万円の実行はなされておらず、平成4年8月6日付金銭消費貸借契約は要物性を満たしておらず、同契約は不成立でありそれに伴った本件抵当権設定も瑕疵のあるものである。

6、 原裁判所は、本件物件につき、本件抵当権が真正に設定されたものと誤認して開始決定をし、売却許可決定をなしたものであるので、同開始決定および売却許可決定は違法である。

7、 よって、抗告の趣旨記載の裁判ありたく、民事執行法第74条第1項、第2項、第70条1号、第10条により、この執行抗告をする次第である。

添付書類(省略)

物件目録(1)

1 所在   浦和市大字白鍬字宮腰

地番   261番1

地目   宅地

地積   2174.84m2

(所有者 矢作 千代)

2 所在   浦和市大字白鍬字宮腰261番地1

家屋番号 261番1

種類   居宅

構造   木造スレート葺2階建

床面積  1階 108.87m2

2階  64.77m2

附属建物の表示

符号   1

種類   物置

構造   木造ビニール板葺平屋建

床面積  9.93m2

符号   2

種類   車庫

構造   鉄骨造亜鉛メッキ鋼板葺平家建

床面積  76.01m2

(所有者 矢作 重)

物件目録(2)

3 所在   浦和市大字白鍬字宮腰

地番   261番2

地目   宅地

地積   348.06m2

(所有者 矢作 千代)

4 所在   浦和市大字白鍬字宮腰

地番   262番

地目   山林

地積   247m2

(所有者 矢作 重)

5 所在   浦和市大字白鍬字宮腰261番地2、262番地、261番地1

家屋番号 261番2

種類   店舗 共同住宅

構造   木造亜鉛メッキ鋼板葺2階建

床面積  1階 119.24m2

2階 105.99m2

附属建物の表示

符号   1

種類   物置

構造   木造亜鉛メッキ鋼板葺平家建

床面積  13.79m2

(所有者 有限会社 矢作商事)

物件目録(3)

6 所在   浦和市大字白鍬字宮腰261番地2、261番地1、262番地

家屋番号 261番2の2

種類   共同住宅 店舗

構造   鉄骨造陸屋根3階建

床面積  1階 134.34m2

2階 133.50m2

3階 133.50m2

(所有者 矢作 重)

7 所在   浦和市大字白鍬字宮腰261番地2、262番地、261番地1

家屋番号 261番2の3

種類   店舗 居宅

構造   木造亜鉛メッキ鋼板葺2階建

床面積  1階 75.35m2

2階 40.57m2

(所有者 有限会社 矢作商事)

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